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B1へようこそ!〜資料準備の現場から〜

2024年3月作成

第6回 都立図書館の本を選ぶこと

今回は、一歩踏み込んだ「選書」の話を

 「なぜこの本を都立図書館の蔵書にするのか?1冊1冊説明できなくてはいけない。」と図書館の先輩職員に言われたことがある。都立図書館には「資料収集方針」があり、それに合致する図書を購入しているのだが、すべてのジャンルを細かく網羅しているわけではない。しかし、それがかえって蔵書となる資料の幅を広げることになるのだ。
 というわけで私が1冊の本を前にして「選書」するときには、この1冊を受け入れる理由についてできるだけ言語化を図ろうとしてきた。これがなかなか厄介で、最初の半年くらいはなかなか言葉にならなかった。どうしてよいかわからず、本を手に途方に暮れたものだ。選書のポイントがわかっていなかったからだ。しかし都立図書館には毎日、平均100冊前後の新刊書が納品される。とにかく毎日、先輩職員に教えてもらいながら、「選書」に必要な情報を本から読み取ることに集中したものだ。

選書の着眼点

 私の「選書」方法について説明しよう。ここに「食べ物の本」があるとする。「食べ物の本」と一口に言っても、料理、栄養、健康、食品化学または食品加工、あるいは食文化についての本もある。また内容によっては医学や農業、薬学など様々な分野を背景にしていることもある。それに本には、文芸書、学術書、実務書、実用書、専門書などの分け方もあり、それぞれ書かれ方が全く異なる。とにかく一筋縄でいかないのがこういった本のジャンルだ。ジャンルごとに選書の方針が異なるため、まずパラパラとページをめくりながらざっくりと内容を掴む。
 次に著者等を確認しながら前書き、あとがきを読む。ここには著者や編集者の思いが凝縮されていることが多いため、念入りに読む。出版社が売れるのを見込んで作成する本もある。目次で全体構成を把握し、本文に目を通す。
 この作業をしながら考える。誰を対象に書いているか。初心者向きの入門書なのか、専門家向けか、あるいは入社したてのビジネスパーソン対象か、40代の美意識の高い方か、記憶力維持に関心がある高齢者向けかなどなど、こちらも多岐にわたる。ここが重要なのは同じテーマの本(類書)でもターゲット層が異なると書き方、情報量等に大きな違いが出るからだ。
 そして著者の「力量」をとらえる、最も経験を必要とするところ。本文ににじみ出る視野の広さ、調査の緻密さ、読みやすい簡潔な文体...これはよい本にたくさん目を通さないとわからないと思う。だから書棚にもよく行く。都立図書館の選書の目を確かだと思うから、書棚を信頼しているのだ。

 私はこんな流れで選書をしているが、もう一つ、選書のために行っていることがある。
 それは類書を比較してみること。1つのテーマに対して1冊では気づけない幅広さ、奥行きの深さに触れることができるからである。

具体例

 例えば果物の「柿」について調べるにはどんな本があるか。「柿」の種類や、食することによる機能、栄養などを調べてみよう。また他の果物についても一緒に見ることができるとなおよい。
 調べるにあたってまず思いつくのは「果物の事典」系の本。ぱっと検索すると以下の本が見つかる。

(1)『野菜と果物すごい品種図鑑 知られざるルーツを味わう』(エクスナレッジ, 2022.7)
 参考文献から察するに、他の類書から情報を編集して作成した本だろう。6ページにわたって簡単に歴史、主な品種、栄養効果、選び方を掲載。豆知識を入れるにはよいかも。

(2)『カラー図鑑 果物の秘密 利用法・効能・歴史・伝承』(西村書店, 2022.3)
 柿は2ページのみ。品種は書かれていない。説明が短め。

(3)『名前がわかる!フルーツベジタブル図鑑』(主婦の友社, 2018.12)
 主な品種とその解説。旬の時期、産地が記載。柿の写真は全体と断面の2種あり。柿は3ページのみ。凡例の説明が丁寧。

(4)『図説果物の大図鑑』(マイナビ出版, 2016.10)
 柿は8ページにわたる。果物紹介ページと品種紹介ページに分かれており、写真も豊富。日本果樹種苗協会監修だけに、品種別栽培面積ランキング、収穫量の推移などグラフを使用し解説。品種登録された年もわかる。今までで最もまとまりのよい本だと思う。

(5)『地域食材大百科 第3巻』(農山漁村文化協会, 2010.8)
 柿は11ページ。原産・来歴と利用の歴史、特徴と栄養・機能性、種類・品種とその特徴、栽培法と品質、加工品とその特徴などが記載。出版年が少し古いので、新しい品種等はわからないが、柿について一通り知識を入れるにはよいかもしれない。

(6)『果実の事典』(朝倉書店, 2008.11)
 まず1ページにわたって柿の学名の解説から始まる。柿は17ページ。形態、原産地と伝播、栽培沿革と利用の歴史、生産と消費、栄養成分、利用・加工など。栄養についてはこれが一番詳しい。序には「果実についてあまり専門的でなく幅広い知識を求めている一般の読者を対象としており(後略)」とあるが、読んだ中で一番、読みごたえがある。

 こういった図鑑や事典は、司書はタイトルと出版社を一目見ると大体どんな書かれ方をしているか想像がつくと思うが、実際に比較してみると、類書でもこれだけ内容が異なるのだ。私は類書の違いを読み取ることで、1冊の本を「選書」する視点も養われると思っている。

 また、「選書」ではこんなところを意識していたりもする。
・文学作品等の巻末についている解説はきちんとした解説か?単なる感想になっていないか?
・断片的な知識を羅列した雑学本か、歴史文化背景等まで掘り下げた教養になる1冊か。
・実用書ではHow to do本なのか、How to think本(この段階で実用書ではないかも?)なのか。
・教科書的なテキスト本では、体系化された情報が並んでいるだけではなく、リアリティやストーリー性があるか。
・伝記的な本は、その人の人生を追うことにより、その人の業界について歴史、文化史までがわかるか。
・評論には明確なテーマと結論があるか。

 著者、訳者も重要だ。過去の作品やその分野における受賞歴など実績を調べる。賞もまた多種多様だ。どんな賞かも調査する。しかし実績がないからといって受け入れないわけではない。前述のポイントを総合的に判断して受け入れるかどうか決めているわけだが、その判断がまた経験を必要とする。都立図書館では新刊書は1冊の本を2人以上で選書するのだが、ここで選書の結果を言語化しておかないと、相手に伝えられない。そこで必死に言葉にするのだ。

 なぜこの本を図書館に受け入れるのか、あるいは受け入れないのか。
 そう、選書は楽しく泥臭い仕事なのだ。

選書の大きなみちしるべ「書評」

 ここで気軽に疑似的に選書を体験してみないか。都立図書館にいればすぐにできる。1冊の本について書かれた2種の書評を、類書を比較する感覚で読むのだ。

 本:『戦地の図書館』(東京創元社, 2016.5
 書評1:『日本経済新聞』2016年7月3日(土)朝刊21ページ(1109文字)
 書評2:週刊誌『週刊文春』58巻28号通巻2880号 2016年7月21日 106ページ(792字)

 書評1と2は評者が異なる。各媒体の読者が読みたいと思う書評が書ける評者が書いており、同じ本について書かれた書評でもこれだけ評者、読者想定によって異なることが大変興味深い、と私は感じたが、いかがだろうか(ついでに都立図書館の新聞、雑誌の利用もしてみてほしい。)。

(担当:きみを/新聞雑誌収集担当)

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