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子どもと大人の心をつなぐ読書 山花郁子氏

子どもの読書に関する講座
子どもと大人の心をつなぐ読書―山花郁子氏の実践から―

山花郁子氏

プロフィール

山花郁子氏は昭和6年、東京生まれ。調布市の児童会館・婦人会館設立時に母と子の事業計画に加わり、昭和41年に開設した調布市立図書館に司書として勤務。図書館員時代に日本子どもの本研究会の活動に加わり、児童図書を研究するようになる。当時はまだ知られていなかったブックトークに着目し、実践を推しすすめた。地域文庫の開設なども行い、親子読書・PTA読書活動に力を注ぐ。公民館長、教育委員をつとめる。子どもの読書の大切さをふまえて、創作・評論活動を行っている。また、武蔵野市の読書の動機づけ指導では、当初から指導を行っている。平成15年度子どもの読書活動優秀実践者として文部科学大臣賞を受賞。著書に『わかれ道おもいで道』(岩崎書店)『ブックト-クのすすめ』(国土社)『お年よりと絵本でちょっといい時間』(一声社)などがある。

1.子どもたちとの出会い

山花郁子氏の写真

私の今までの子どもやお年寄りに対する読書活動の実践について、お話いたします。地域の方たちと読書活動をしてきて、いろいろな影響を受けて、今の自分の色が出てきたと思います。図書館員時代が今の仕事の基本になっています。忘れられない子どもたちとのかずかずの出会いがありました。
ある日、おとうさんと男の子がやってきて、「まごのまごのそのまたまごの本」と探していました。探していた本は『ちいさいおうち』(バ-ジニア・リ-・バ-トン文・絵 石井桃子訳 岩波書店)でした。この本は、いのちをひきついでいると実感しました。

藤本義一氏は、著書の中で「人間は心も成長しないといけない」と述べています。読書は心を成長させます。
角野栄子さんと対談した時の話。おかあさんが小さい時になくなったので、いつも弟のおむつをかえていたそうですが、そのときかならず、「のびのびせいよ」と言っていたそうです。また、折り紙をおるときは「きちょうめんきちょうめん」と言っていたそうです。繰り返し耳に入ったことばはからだにしまいこまれるのです。それから、私もそのフレーズが口をついて出ます。子どもたちにとっても本の中身より、まず耳から入る快いことばが想像力をかきたてます。こんなときも、いのちをひきついでいると感じます。

図書館員に成り立ての頃、かっちゃんとしんちゃんの兄弟に読み聞かせの練習台になってもらっていました。『なにしているの』(よだじゅんいち文 よこたしょうじえ 童心社)を読んだとき、かっちゃんはすっかり覚えてしまって、「グツガタグツガタ」と調子よく弟に読んであげていました。でも、実は字が読めませんでした。字が読めるようになっても、活字を追ってしまうので調子よくは読めませんでした。子どもにとっては、字が読めても読んでもらう楽しさは格別なものだと思います。

2.作家との出会い

まず、心に残っているのはエズラ・ジャック・キーツとの出会いです。この画家の原動力になっているのは、母とながめた夕焼けの美しさでした。夕焼けの美しさは貧乏人の子でもおなじように見ることができます。マレーネ・ディートリッヒも『ディートリッヒのABC』(フィルムアート社)のTの項目で、トワイライトは失われてしまっただいじなひとときとしています。木下順二さんは、「話し言葉は時代とともに変わる。話し言葉が民族の文学である」と話していました。ミラ・ローベは、「子どもたちにたくさん楽しい作品を書きたい、でもそのなかにちょっぴり苦いお薬を効かせたい。長く人生を歩んできた私たちが子どもたちに伝えたいことがある」と言っていました。

3.武蔵野市における3年生の読書の動機づけ指導

毎年5月の連休あけから始めます。事前に図書館と読書の動機づけ指導にあたる指導者で、その年の新刊書の中から選書をします。選んだ図書はセットにして、動機づけ指導が終わったら学校に贈られます。ここでも毎年子どもたちとのいろいろな出会いがあります。
『こんこんさまにさしあげそうろう』(森はなさく 梶山俊夫え PHP研究所)を取り上げたとき、江戸こもりうたを歌って、終わると、男の子がしみじみと「先生、こもりうたっていいね」と言いました。また、『かっぱどっくり』(萩坂昇ぶん 村上豊え 童心社)を紹介して、「かっぱって知ってる?」と言うと、ほとんどの子が知っていると言いました。「本当にいるかしら」と言ったら、ある子が「遠野のおばあちゃんから聞いたから、絶対いるよ」と言いました。遠野のおばあちゃんというと説得力があります。「かっぱと毎日話している」と言うと、「今度写真に取ってみせてね」と言われました。そういうふうに話を楽しむのがいいなあと思いました。

『てぶくろ』(ラチョフえ うちだりさこやく 福音館書店)を読んだとき、5年生の子にそんなに入るわけないと言われました。そんなふうに言うなんて、とても残念でくやしかったので、てぶくろ人形を作って、一緒に遊びました。てぶくろの中から、いろいろな動物が次々とでてくるものです。こんなふうに、手づくりのものを作って、子どもたちといっしょに遊ぶと、とても楽しく子どもたちも喜びます。仲間たちといろいろ作っています。

手作りのものの写真

4.老人介護施設での活動

母が老人介護施設に入所するようになって、介護施設での活動も始めました。今はこちらの活動に力を入れています。
お年寄りの選書は難しいと思います。刺激の強いものはダメです。迷いつつ選んだ『セルコ』を読んだとき、「老いぼれの役立たず」になって飼い主からお払い箱になるところから話が始まるので、いやな感じがするかもしれないとお年寄りの反応が心配でした。しかし、骨太の昔話の世界ではいらぬ心配だったようです。民話、昔話、落語など、むかし、耳から聞いたことのあるおなじみの話が喜ばれます。歌が物語を伝えると思います。かならず歌を入れるようにしています。小学校唱歌が人気があります。「あのこはだあれ」を歌い、名前を呼んであげると、とても喜んで参加してくださるようになりました。いろはがるたや百人一首も楽しい。小さいときに覚えたことばは出てくるようです。
年をとってからも絵本が楽しめるというのはすてきなことだと思います。人生経験を積んだ方ならではのふくらみのある受け止め方をしてもらえます。ただ、読んでもらった経験がないので、とまどいがあるようです。
私には最近、「ばんざいの日」という記念日ができました。『富士山にのぼる』(岡部一彦絵 菅原久夫文 福音館書店)の読み聞かせをした時に、最後に元婦人会の方が「大こくさま」の歌をリクエストして音頭をとり、歌い終わるや、車椅子の上で両手を挙げて、「ばんざい」みんなも思わず、「ばんざい」と唱和しました。いかにも、元婦人会の方という感じでほほえましいと感じました。

5.まとめ

今日も明日も明後日も「動かなければ出会えない 語らなければ広がらない 聴かなければ深まらない」もモットーに活動してきました。老いてからもだれもが子どもの本の生き生きとした世界に近づくことができるようだったら、どんなにいいだろうかと思います。これからも、子どもたち、お年寄りとの出会いを深めていきたいと思います。

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