俳優見立夏商人(はいゆうみたてなつしょうにん)
歌川国貞(うたがわくにさだ)(初代)画 天保年間(1830~1844)刊 東京誌料 5714-C31-1

 夏を代表する商売を歌舞伎役者が演じるという見立絵です。画中に「なまぬるい役者のきもをひやさせむ、うつ巻瀧の氷水売」とあるように「氷水」を売り歩く商人を描いています。


 江戸の町の人々の生活用水として神田上水や玉川上水が敷設されましたが、その水もあまりおいしくなかったようで、飲み水は棒手振(ぼてふり 商品を天秤棒でかついて振りながら売り歩く行商人)の水屋から買うこともあったようです。
 このような水屋とは別に、夏になると登場するのが「冷水」を売り歩く棒手振です。幕末に書かれた『守貞謾稿(もりさだまんこう)』という随筆には、上方にはない江戸独自の商売として「冷水売り」という呼び名の商売人が、冷水の中に寒晒粉(かんざらしこ)の団子と白糖が入ったものを売っていたとあります。
 また6月1日は加賀藩が駒込の氷室に保管していた氷を将軍家に献上する儀式が行われていましたが、その余りを通行人に配っていたそうです。夏の暑さを和らげる「冷水」や「氷水」も江戸の夏を彩る風物詩の一つだったのでしょう。
 絵に描かれている役者は、十二代目市村羽左衛門です。市村羽左衛門家は、市村座の座元として続いてきた名家です。

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