金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)
恋川春町(こいかわはるまち)作画 安永4年(1775)刊 加賀文庫 函41-14

 安永期(1772~1781)から文化年間(1804~1817)にかけて「黄表紙」と呼ばれる庶民のための絵入りの読み物が大流行します。その黄表紙の始まりと言われるのが恋川春町の手による『金々先生栄花夢』です。


 作者・恋川春町(1744~1789)は、狂歌師、黄表紙作者、浮世絵師として活躍した多才な人物でした。武士の出身で現在の静岡県静岡市にあった駿河小島藩・滝脇松平家の年寄本役として藩政の中枢にいたため幕政に関する情報も手に入れることができました。
 『金々先生栄花夢』で人気作家となった春町ですが、天明8年(1788)に刊行した『鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)』が幕政を批判したとして取り締まりの対象となった後、まもなく亡くなってしまいました。
 本作品は、謡曲『邯鄲(かんたん)』の黄粱(こうりょう 大粟)一炊の夢の筋立てを模した作品です。再板の際に見返しに貼付された絵題簽(えだいせん)には、主人公・金村屋金兵衛が栄華を望んで江戸に出、途中立ち寄った粟餅屋で、うたた寝をして夢を見ている姿が描かれています。
 富裕な商人の跡取に迎えられるが、贅(ぜい)に耽(ふけ)り当世風の遊びをつくした挙句追い出されたところで目が覚め、人間一生の楽しみも粟餅一炊のうちと悟って故郷へ帰る内容です。当世風で知的な描写により、黄表紙時代の始まりを告げる歴史的作品とされています。

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