偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)
柳亭種彦 (りゅうていたねひこ)著 歌川国貞(うたがわくにさだ)画 文政12年(1829)~天保13年(1842) 加賀文庫 加12369

 平安時代に紫式部によって書かれた『源氏物語』の世界を室町時代に置き換えて描いた合巻の代表的な作品です。合巻とは草双紙の一種で、赤本、黒本、青本、黄表紙と展開してきた江戸文芸をさらに発展させ、それまで5丁1冊としていた本を、数冊分合わせて1冊とした絵草紙のことで、長編作品が作られる一つのきっかけとなりました。


 『偐紫田舎源氏』は源氏物語の世界を絵草紙として翻案した長編作品で、文政12年(1829)から38編(各編4冊)が刊行されました。
 著者・柳亭種彦(1783~1842)は旗本の生まれで国学も学んだ人物で、既存の『源氏物語』の注釈書、俗解書などを参考にしながら、歌舞伎・浄瑠璃的な世界を取り入れ、推理小説仕立ての作品として書き上げたのが、この『偐紫田舎源氏』です。
 紹介した場面は二編上下冊の表紙で、下冊に結び文の艶書に見せかけて藤の枝につけた手紙を差し出す主人公光氏(みつうじ)を、上冊にそれを受け取る被布姿の藤の方(藤壺の女御)を描いています。
 天保13年(1842)、絶版処分を受けましたが、その理由の一つに、主人公の光源氏にあたる光氏の生活が、当時の将軍・家斉(いえなり)と大奥を模したのではないかと噂され、絶版処分となったという説もあります。草稿として39編40編が残っています。

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