江戸自慢三十六興 海晏寺紅葉(えどじまんさんじゅうろっきょう かいあんじのもみじ)
歌川豊国(うたがわとよくに)(三代)、歌川広重(うたがわひろしげ)(二代)画 元治元年(1864)刊 東京誌料 3556-C1

 品川鮫洲(さめず)の曹洞宗の寺院・補陀落山(ふだらくさん)海晏寺は紅葉の名所として、晩秋の頃になると遊客が訪れて賑わいました。境内の紅葉を楽しむ母子づれの姿が描かれています。


 海晏寺(かいあんじ)は、東海道第1番目の宿場町・品川にあり、江戸随一の紅葉の名所として有名な寺院です。品川の漁師の網にかかった鮫の腹中から観音像が出てきたことから、建長3年(1251)、時の執権・北条時頼が同寺を建立してこれを祀った(まつった)のが始まりとされ、鮫洲という地名の由来の一つにもなっています。
 10月は神無月(かんなづき)の名前のとおり、神々が出雲へ行って不在のせいか、江戸の町では祭礼も少ないこともあり、人々の足は紅葉の名所に向かったようです。海晏寺の広大な庭には紅葉茶屋が設けられるなど、日帰りできる行楽地として多くの人で賑わいました。
 画面には母子が書かれていますが、紅葉狩りは若者や婦女子にはあまり人気がなく、俳句や連歌の宗匠、医師、僧侶などの文人が多く、大人の遊びであったとも言われています。

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