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海外で読まれる日本の絵本 (株)日本著作権輸出センター 吉田 ゆりか

執筆者紹介

海外における日本の絵本の出版状況をについて、(株)日本著作権輸出センターの吉田ゆりかさんに、執筆をお願いしました。

日本で子どもたちに親しまれている絵本には「どろんこハリー」や「ひとまねこざる」のように海外からの翻訳絵本がたくさんあります。一方で日本の絵本は、海外でどのくらい読まれているのでしょうか。グローバル化が進む今日、絵本の世界でも国境はなくなりつつあるのでしょうか。近年、日本の絵本がとくに多く翻訳出版されている韓国の事例を中心に、各国での様子を見てみましょう。
韓国はここ数年、児童書出版ブームです。欧米の絵本も日本の絵本も、本当にたくさん翻訳出版されています。なかでも「りんごがドスーン」(多田ヒロシ・作、文研出版、1981年初版)、「かさ」(太田大八・作、文研出版、1975年初版)などは、韓国でそれぞれ1996年、99年に刊行さてから着実に読者を増やし続け、今では韓国のロングセラー絵本としてすっかり定着しています。幼児のいる家庭ならどこの家にもある絵本、と言われるほど市民権を獲得しました。かつて韓国では、絵本といえば訪問販売によるセット組高額商品が中心でした。そのころから、これらの絵本は書店で販売されてきました。店頭で一冊一冊子どもたちの手にわたりながら、今では各10万部以上が発行されています。
福田岩緒さんの絵本も韓国で根強い人気があります。「おならばんざい」(ポプラ社、1984年初版)、「おにいちゃんだから」(文研出版、2000年初版)など多数翻訳されています。現在、韓国の小学校はインターネット・ライブラリー導入の検討が進められています。これは厳選した図書を学校図書館のパソコンで閲覧するという構想です。推薦図書には福田岩緒さんの名前がいち早く挙げられました。海外作家が候補に挙がるのは稀なことで、評価の高さがうかがえます。
「くれよんのくろくん」(なかやみわ・作、童心社、2001年初版)は日本ですでに累計30万部発行された人気の絵本ですが、韓国では2002年3月に翻訳出版されるなり、ソウルの大型書店の児童書週間ベストセラーにランクインしました。同作家の「そらまめくんのベッド」(福音館書店、1999年初版)も韓国で出版されています。きっと今後長く韓国の子どもたちに愛されることでしょう。
「くれよんのくろくん」のように、日本の初版刊行からほぼ時を同じくして翻訳出版されるケースが、近頃、韓国をはじめ各国で増えているのを実感します。インターネットの普及や、本の流通網の多様化によって、情報がスピーディに流れるようになったためなのでしょう。さらに、韓国をはじめアジアの国々では日本語を理解できる人が多いことも、翻訳出版が迅速に進む一因となっています。一方で、印刷技術の進歩も翻訳出版を促進しました。これまでの印刷用フィルムに代わり、製作素材をデータ(CD-R等)で提供できるようになったため、出版する側の費用面での負担が軽くなっただけでなく、翻訳編集作業もしやすくなったのです。
科学絵本についてもこんな話があります。昨年九月、韓国で初の月刊絵本「ブックス・ブックス」の刊行が始まりました。日本では園児が月刊絵本を定期購読するシステムがありますが、それに習って韓国でも始まったのです。ソフトカバー創作絵本(二作品)、科学絵本、総合誌、ワークブック、育児ガイドの計6冊が、毎月手頃な価格で直接自宅へ配本されるため、大変話題になりました。なかでも、科学絵本「月刊ビッグサイエンス」(チャイルド本社)の翻訳版が話題になっています。当初会員15、000人でスタートしたブックス・ブックスは、今年に入って、80,000人を超える勢いです。成功の鍵は「ビッグサイエンス」にあったと言われています。身近な科学を子どもたちにわかりやすく、というコンセプトを活かすために、韓国版の再編集にも柔軟に対応しました。登場する日本の子どもの写真を韓国の子どもに差し替えたり、「やさいのはな」号では、表紙を韓国で親しみのある野菜に変更したり、といった具合です。実際の読者である韓国の子どもたちが違和感なく楽しめることを大切にした結果の成功です。
このように韓国をはじめ各国で、毎年日本の絵本が翻訳出版されています。日本著作権輸出センターが取り扱っただけでも、2001年に90冊、2002年に120冊と、年々数は増え続けています。しかし、日本の絵本を海外で出版する場合には様々な障壁があります。
まず、本の進行方向の問題。日本の絵本は文字が縦書きのものと、横書きのものがありますが、翻訳出版の場合、縦書き絵本に問題が生じてくるのです。文字が縦書きの絵本は、右から左へ頁が進んでいく本のつくり(右開き)になります。大抵、絵本の登場人物は本の進む方向に合わせて描かれますから、例えば主人公のくまさんは左へ左へと進む、というわけです。しかし、韓国や欧米の文字は左から右へ進む横書きですから、本の頁は左から右へと進みます(左開き)。すると、くまさんは右に向いて進んでいくのが自然です。日本の原書が縦書きの場合、このような理由で韓国版などでは原画を逆版(鏡に写ったようなさかさまな絵)にして対応せざるを得ない状況が出てきます。もちろん、逆版による絵の修正は極力避けたいことですし、画家の許可なしには一切行うことができません。前述の「おにいちゃんだから」も原書は右開きです。韓国の出版社は左開きで刊行するにあたり、頁の見開き(本を開いたときの対向二頁)毎に絵を配置しなおし、ダミー本を作り、福田さんの意見を伺いながら、できるだけ逆版せずに丁寧に再編集した本でした。
「つちのふえ」(今西祐行・著、沢田としき・絵、岩崎書店、1998年初版)は、戦争をテーマにした絵本ですが、2002年にフランスで刊行されました。これも原書は右開きの本でした。本文についてはフランスの出版社が丁寧にレイアウト処理をして、逆版せずに編集することができました。問題は表紙です。日本語原書では手書き文字が縦書きで配置されていました。文字も絵の一部として調和した表紙です。そこで画家の沢田としきさんは、フランスの編集者と相談の上、横書きのタイトル文字を新たに描き起こしました。その結果、フランス版は日本版に負けず劣らず美しい絵本に仕上がりました。
稀に、翻訳文について話合うこともあります。作品はあくまでも著者の創作によるものですから、訳文にしても勝手に手を加えてはなりません。しかし、その絵本が本当にその国の子どもたちのロングセラーになるには微調整が必要な場合もあるのでしょう。現地の編集者の声に耳を傾けることも大切です。その上で作家がどのように出版したいか、話し合いによって解決策を模索していきます。
絵本の翻訳出版の障壁は、このように日本と海外の編集者、そして著者の協力によって、ひとつひとつ乗り越えられているのです。そうして日本の絵本が海外の子どもたちの手に届けられるのです。
最後に、日本のロングセラー、ベストセラー絵本の最近の海外での出版状況についてご報告します。
「11ぴきのねこ」シリーズ(馬場のぼる・作、こぐま社、シリーズ第一作1967年初版)は、日本でシリーズ累計発行部数330万部を超える大人気シリーズですが、かつてアメリカ、スウェーデンで刊行され、台湾、タイに続き、今年韓国での翻訳出版が予定されています。中国では先頃月刊雑誌に連載されました。
「14ひきの」シリーズ(岩村和朗・作、童心社、シリーズ第一作1983年初版)は、フランスをはじめ、ドイツ、イタリア、スペイン、アメリカ、台湾、インドネシアなどで刊行されています。特にフランスではハードカバー、ポケットブック、ブッククラブ版など、いろんな形態で子どもたちに届けられてきました。韓国版は同国では珍しいカバー付きで刊行されました。14ひきのシリーズは、表紙とカバーの絵を比べると、同じ構図なのですが、ねずみたちの表情をはじめ、絵がすこしずつ違っています。そんな作者の遊び心たっぷりの仕掛けを理解して、韓国でも慣例に従わずカバー付きで刊行したのです。同作家の「かんがえるカエルくん」(福音館書店、1996年初版)も、今ではフランスの書店に並んでいます。
五味太郎さんの絵本は「みんなうんち」(福音館書店、1981年初版)をはじめ、たくさんの絵本が各国で刊行されています。メキシコでは「てのひら絵本」シリーズ(偕成社、1990年初版)が好評です。厚紙でつくられた真四角の小型絵本は、シリーズのどの本も穴の開いた仕掛け絵本です。これまでメキシコだけで30万部が発行されました。昨年からメキシコ教育庁の識字教育プログラムにも採用されています。
「ノンタン」(キヨノサチコ・作、偕成社、シリーズ第一作1976年初版)は、2002年にやっとフランスで刊行されました。台湾でも2002年にシリーズのほぼ全巻が翻訳出版されたところです。日本での長年の人気を考えると、なぜこれまで翻訳出版されていなかったのかと、不思議な気持ちになります。
ノンタンはボローニャやフランクフルトなど国際ブックフェアで長年展示され続けてきました。各国の編集者の目にとまる機会は、これまで十分にあったはずです。にもかかわらず、出版されませんでした。しかし、逆に考えれば、今だからノンタンを海外で刊行できる下地が整ったのかもしれません。それは、日本のコミックやアニメが海外進出して絶大な人気を得ている社会状況とも、おそらく無縁ではないのでしょう。
ここで紹介した他にも、海を越えた絵本は数多くあります。その中から、彼の地で何世代にもわたって長く愛される絵本がでてくる、なんてことになると、もっと愉快ですね。

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