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第32弾「古書の愉楽 その2」

2011年4月7日

「バットの手工」表紙画像

前回に続いて今回も古書の新着書から数点紹介いたします。
前回は東京関係の資料が多かったのですが、今回はちょっと毛色の変わった珍しいものを選んでみました。

バットの手工』 日本玩具協会 1932年刊

今では、健康面の問題から、受動喫煙の防止について、法的にも定められているタバコですが、ほんの一昔前の写真や映画をみていると、こんなときこんなところでタバコをすっている時代もあったのか、とあぜんとすることがよくあります。この本はそのような時代をほうふつとさせてくれる資料のひとつです。タイトルの「バット」は正式には「ゴールデンバット」といって、今でも現役のJTの銘柄です。薄緑の地に2羽の金色のこうもりの図柄のパッケージはなかなか印象深いもので、文芸作品にもよく登場するものです。名前は広く愛煙家の間で知られていますが、今でも現役の銘柄であることを知っている方は少ないかも知れません。明治39年に発売されて以来、100年以上続いているロングセラーです。年配の方にはピースや光(いずれもタバコの銘柄名)の箱を切って放射状に組み並べた紺色やオレンジ色の卓上敷物(「土瓶敷」というのだそうです)の記憶を持っている方もおられるでしょう。私の記憶の中のバットは柔らかい袋状のパッケージでしたが、この本の映像をみると、戦前は箱型のパッケージだったようです。この本にはその箱型パッケージをはさみで切り分けて様々な形象を組み上げる様々な技が披露されています。

京都』 京都市役所 1925年刊

戦前の京都市が発行した観光案内書です。
現役のころはありきたりで大切に保管するほどの価値はないけれど、数十年の時を経るとそれなりの価値を発揮する資料があります。これもそのような資料のひとつです。ここでもう一つ紹介したい現代の本があります。『つくられた桂離宮神話』という本です。著者の井上章一氏は国際日本文化研究センターの教授をされていますが、様々な神話の形成過程を歴史的に跡付けてゆく分析手法に定評があります。「日本美の典型」として桂離宮が祭り上げられてゆく評価の変遷過程を氏は、京都名勝記(京都市参事会 明治36年)や新撰京都名勝誌(京都市教育会 大正4年)などの案内書での記述を取り上げて跡付けていきます。こうした古い資料も歴史的な分析対象として貴重な資料となる、という例として取りあげてみました。

紀州徳川家蔵品展観目録』 徳川侯爵家什寳係 1927年刊

いわゆる「売立目録」のひとつです。昭和の初期、とくに2年の金融恐慌以後、旧華族所有の美術品や工芸品が大量に市場に放出される状況がしばらく続きました。このあたりの事情については『家宝の行方』(小田部雄次著)に詳しく記述されています。オークションの参加者に配られる目録ですから、市販される図書とは流通形態がまったく異なりますので、公共の図書館でこの手の資料を多くもっているところはあまりありません。強いて挙げれば国立国会図書館と大阪府立図書館ですが、それでもこの世に数千点あるといわれる「売立目録」のなかで二百点程度です。売立目録については『売立目録の書誌と全国所在一覧』(都守淳夫編)という大部の労作があります。
前述「家宝の行方」によれば、紀州徳川家は昭和2年から9年までに3回の売り立てを行っていますが、この目録はその第1回目のものにあたります。


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