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第54弾「アトラスの楽しみ」

2017年4月1日

「Brand Atlas : Branding intelligence made visible」表紙画像

アトラス(Atlas)は通常、地図帳(帖)と訳されます。確かにロードアトラスと言えば道路地図帳のこと。現今、カーナビをはじめデジタル全盛の時代で、冊子の地図帳はその必要性が低下しました。しかしアトラスと言っても必ずしも地図の集成だけではありません。スカイ・アトラスや宇宙アトラスなどと呼ばれる天体の配置や動きを図解するもの。さらに人体解剖図集もアトラスと呼ばれます。このあたりまでは地図の延長上で何とか納得できるのですが、こんなものまでアトラスになる?と首を傾げたくなるようなものも結構たくさんあるのです。国内では一般に図解本と称されるものが海外ではAtlasと名乗っている場合が多いようです。今回は当館所蔵の洋書のなかから、そんな変わり種のアトラスを集めてみました。

Brand Atlas : Branding intelligence made visible』 Alina Wheeler and Joel Katz (John Wiley & Sons, 2011)

これは世界のブランドのカタログ本ではありません。著者Alina Wheelerはグローバルに活躍するブランディング(企業や商品のブランドを形成し、高めていく戦略)の専門家であり、その考え方、原則、導入・実践過程や手法をわかりやすくチャート化・図解した本です。Wheelerのデビュー作『Designing Brand Identity』は2003年に初版が出たあと版を重ね、この11月には第4版が出版されているロングセラー本(John Wiley & Sons, 2012/11)です。そのコンセプトを、高名な情報デザイナー(情報をわかりやすく視覚化する専門家) Joel Katz (こちらはこの10月に『Designing Information』という情報デザインの本を単独で上梓しています)とのコラボで、Atlasにしてしまったのがこの本です。この本の前書きで、世界最初のアトラスを出版したオルテリウスとメルカトールのコラボになぞらえて、「読者がいまどこにいて、これからどこへ向かえばよいか」を指し示すように書かれた書籍だ、と自己紹介しています。この「読者」を「ブランディングに携わる人々」と置き換えれば、この本の意図がそのまま表されている、と言えます。

The atlas of new librarianship』 R. David Lankes (MIT Press, c2011)

これもまたいわゆる地図集やカタログの類ではなく、著者のコンセプトをわかりやすくレイアウトし図式にした書籍です。ライブラリアンシップという言葉は図書館の関係者以外には馴染みがないかもしれません。図書館司書の職務のありかたを指します。この本で著者は「図書館司書のミッションは地域社会(利益集団)の知的創造を鼓舞することによって社会の進歩に寄与することである」という命題を提示し、それを演繹、チャート化することによって、これからの図書館司書がいかなる視野を獲得すべきか、どのようにしてその役割を果たしていくべきか、を明示していきます。
この本は米国図書館協会(ALA)から2012年の"ABC-CLIO/Greenwood Award for the Best Book in Library Literature"という賞を贈られています。このときの記事が国立国会図書館のカレントアウェアネス・ポータル(2012/3/1、 http://current.ndl.go.jp/node/20283)で紹介されています。
この本はいわば「新しい時代の、新しいスタイルで書かれた図書館学概論」と言えるのではないでしょうか。往年の「概論」に取り組んだ経験をもつ者がこの本を眺めてみると、そのスタイルの変わり様に隔世の感を否めません。情報革命の波をくぐってきた図書館をめぐる社会情勢・技術情勢の急激な変わり様を反映していると言えるでしょう。

Atlas of headache disorders and resources in the world 2011』 a collaborative project of World Health Organization and Lifting the Burden (World Health Organisation 2011)

WHO(世界保健機関)とロンドンにオフィスをもつ慈善団体「Lifting the Burden」の共同プロジェクトによる頭痛に関する調査報告書です。調査は世界101か国の内科医と患者から質問票を回収するという形で、2006年10月から2009年3月にかけて進められました。
このプロジェクト・報告書の趣旨は、(1) 頭痛はそれによる社会的な損失(コスト)が大きい。(2) にもかかわらず、その重大性に対する社会的な認識が、医療関係者、患者側、政府関係機関のいずれでも低い。(死に至る病ではない、一過性である、人に感染することがない、など様々な理由が考えられる)、(3) なので、社会的な意識・認識を高め、適切な知識に基づいた対策をとること、政治的な意思に基づいて社会的な投資をすること、が必要である、というとても簡明なものです。
どれほど社会的な損失(コスト)が大きいのか。EUでは、毎年1億9000万日分の仕事が頭痛が原因でできなくなっており、年間コストは1550億ユーロ(2290億ドル)と見積もられています。どれほど社会的な認識が低いか。成人人口の約半数から3分の2の人々が過去1年間に何らかの頭痛を経験していたにも関わらず、頭痛患者の50%は診療を受けていないそうです。
調査結果を世界地図とグラフでわかりやすく表示し、簡潔なコメントを添えるというアトラスの形式を使うことで、上記の主張が納得のいく形で提示されています。我々から見ると、チャートを多用した単なる調査報告書ですが、医療関係書の分野では人体解剖図以外でも図解本のタイトルの一部にアトラスと付ける習慣が行き渡っているようです。

Atlas of the 2008 elections』 edited by Stanley D. Brunn (Rowman & Littlefield Publishers, c2011)

アメリカ合衆国の大統領選挙はつい先ごろ終わったばかりですが、この本は4年前オバマ民主党候補が一大ブームを巻き起こして当選したときの選挙記録・分析をアトラス(図式、グラフ)にしたものです。
この本は米国図書館協会の発行する書評誌『Booklist』の2011年編集者選定参考図書(Booklist Editors' Choice: Reference Sources, 2011)に選ばれています。
政治学者の手になる200以上の図表を用い、コメントを付して、予備選挙、本選挙の細部にわたる投票行動パターンの分析を行っています。そして最後の章では今日のアメリカの選挙制度が抱える問題点を列挙して、今後(この本が出版されたのは2008年の選挙の3年後、昨年の選挙の1年前です)の投票行動の行方を占う10のシナリオを掲げて締め括っています。2012年の選挙が終わった今、その結果と1年前の予測シナリオを比較してみるのも面白いかもしれません。

Atlas of remote islands : fifty islands I have never set foot on and never will』 Judith Schalansky (Penguin Books, 2010)

地球上の孤島のうち50を選んで紹介した本です。これまでの4冊に比べると、従来型のアトラス本(地図帳)の形式に則ったものですが、対象の選択が変わっているので、今回の紹介で採り上げてみました。
50の島それぞれの概要(経緯度、面積、人口、最も近い都市からの距離、隣の島からの距離など)を示すとともに、その島にまつわる逸話を1ページにまとめて紹介しています。著者のJudith Schalanskyはドイツの若い(1980生れ)女流作家であり、グラフィック・デザイナーです。
50の島のなかには、モアイ像で有名なイースター島(最も近い無人島まで400km以上、最も近い有人島に至っては2000km以上という太平洋上の孤島)や、ギネスブックで「世界一孤立した有人島」として掲載されているトリスタン・ダ・クーニャ島(最も近い有人島まで2400km以上の大西洋上の孤島)が含まれます。その他、面積の広い太平洋上が最も多く、半数を超える27島が取り上げられています。そのなかで日本領に属する島としては唯一、硫黄島が紹介されています。硫黄島のエピソードとして、第二次世界大戦中1945年2月に米軍が上陸して日本軍との激戦ののち、摺鉢(すりばち)山の頂上に星条旗を掲げたときに撮られたローゼンタール(AP通信の報道カメラマン)の写真をめぐる逸話が紹介されています。摺鉢(すりばち)山に星条旗が掲げられた日(2月23日)は、戦後「合衆国海兵隊記念日」に制定されたほど、米国民にとって大きな意味のある戦闘でしたが、ローゼンタールの写真は米国民の愛国心を刺激し、1945年度のピュリツァ賞写真部門を受賞しました。この写真をめぐるエピソードは『父親たちの星条旗』という映画にもなったので、ご存知の方も多いかもしれません。写真に写った米兵たちは戦後英雄に祭り上げられますが、決して幸福な余生を送ることはなかった、と言い伝えられています。
著者はこのエピソードの紹介の最後を「今ではこの写真のイメージはあらゆる戦闘シーンの一部となっている。三人のニューヨークの消防士たちは9月の埃だらけの廃墟のなかで国旗を掲げた。摺鉢(すりばち)山の頂上がグラウンド・ゼロに蘇ったのだ」と締めくくっています。


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